『ねぇ、デートしよう?』

「……まずい、うたた寝しちゃってたか」

机に突っ伏していた顔を上げると、手の甲に押されてた額が少しばかり熱を持っていた。
きっと鏡を見ると、額のあたりが赤く染まり恥ずかしいビジュアルになっていることだろう。
俺は寝ぼけ眼のまま首を振り、そのまますぐベッドに倒れこむと、今度こそ本格的に寝ようと体を布団の中に潜り込ませる。
今度こそ、変な夢を見ない本当の休息に、体と頭を誘うために……

『ちょっとぉ、せっかく女の子から誘ってあげてるのに思いっきりシカトしてんじゃないわよ!』

「せっかく夢って決めつけて、なかったことにしようとした俺の努力を台無しにするなよ……」

しかしまぁ、こうして二度も、しかもハッキリと声が聞こえてしまった以上、“その声”に対して反応を返すしかない。
嫌な予感がして嫌だけど。とても嫌なんだけど。

『なぁんだ、やっぱり聞こえてるんじゃない。まぁ聞こえてたんなら余計に失礼な反応だけどね』

だって、ここは俺の部屋。
家族と相部屋でも、彼女と一緒に暮らしている訳でもない、孤独かつ気ままな一人きりの空間だ。
そこに突然、部屋の天井あたりから女の子の声が響いてきたら、それがたとえデートのお誘いだとしても胸ときめかせるのは無理な相談だ。
だって……

『それじゃ改めて……ね、デートしようよ、わたしたち』

「どうやって!?」

さすがの俺も、姿の見えない女の子とデートを楽しめるほどストライクゾーンは広くないと思うから……

『ん~、なんでそんなにビビってるの? あ、もしかして、今までデートしたことないとか?』

「あるよ!? 何度もしてるよ余裕だよ!」

『……なんか声裏返ってない?』

「そそそそれは、お前が、じゃない、君が姿を現さないからだろ! いない人間とデートなんかできるか!」

『いるってば~。どうして信じてくれないかなぁ』

「普通ね、人はね、見えないものが存在するなんて信じたりしないから!」

『じゃあ、見れればいいんだね? なぁんだ、それなら早く言ってよ~』

「万物の真理をそんなに軽くスルーしないで……」

あとオカルト的存在のくせに、ら抜き言葉とか使わないでよ……

『ほら、こっちこっち……スマホのカメラを、わたしの声がする方向に向けてみて?』

「こ、こう? ……え?」

と、素直にカメラを向けてしまう俺にもいくばくかの問題はあったかもしれないけど……
けれど、もっともっと大きな問題は、俺のスマホ画面に映る、その景色の方で。

何しろそこには、確かに彼女の言う通り、見慣れた部屋の景色の中に溶け込む、俺よりちょっと年上くらいかなって感じの、女性の姿が。
え? なにこれ、かなり、いや、めっちゃ可愛……

「いや怖っ! めっちゃ怖っ!」

『……存在を信じてくれたのは嬉しいけど、その失礼なリアクションで台無し』

「ご、ごめ……いや怖がって当然でしょ! どうなってんのこれ!」

『ついでにシャッター押してみて? そしたらもっと信じられるようになるから』

「……写ってる」

言われるがままシャッターを押すと、今度こそスマホの中に、彼女の画像がしっかり保存される。
いや、カメラで捉えられてるんなら写るのは道理だけど、それにしても……

『という訳で、わたしの存在を認識してくれたよね? 認識したということは存在するということよね?』

「う……」

『ということは、わたしとデートすることにもOKしてくれたということよね?』

「いやその理屈はおかしい」

『も~、強情だなぁ。そんなに意地張ってると、こっちも意地になって憑りついちゃうよ?』

「やっぱ幽霊じゃん!」

昭和どころか平成も終わりだっていうこのご時世に、なんてアナクロな……

『ううん、幽霊なんかじゃないよ……まぁ、君の態度次第では、悪霊になっちゃうかもしれないけどね~』

「俺、憑り殺されるの? デートが済んだら君の仲間になっちゃうの?」

しかも脅迫まで始めたよ……

『それはそれで楽しそうだけど……きっとそうはならないから安心してよ』

「前向きだなぁ……悪霊のくせに」

『君こそ、人間のくせに悲観的過ぎじゃない?』

いや、ここまで存在感を強くアピールする悪霊に憑りつかれて前向きに生きるのは難しいと思うんだけど。
そもそも生きるのが難しそうだし。

『それじゃ、覚悟……じゃなくて、準備はできた?』

「い、いや、その前に……」

『なに?』

「まだ聞いてなかったけど……名前は?」

と、彼女は、スマホの画面越しに、ほんの少し驚きの表情を浮かべ……

『わたしの名前は、ゆかり。よろしくね?』

そして、悪霊らしくない、屈託のない、めっちゃ可愛らしい微笑みを浮かべた。

久しぶりのバイノーラル録音で、とても、興奮しました!!!
浮遊感を出すために、中腰から背伸びしたり、不自然な体勢で言葉を紡ぐ作業。
私の腰がいつギックリッと悲鳴をあげるのか、ドキドキしましたが(笑)、無事収録を終えることができてホッとしています。
下鶴さんと一緒に収録させてもらったことで、お互いの距離感、空気感を直に感じることができて、とても楽しい時間でした。
私達と一緒に、是非『舞台めぐり』の世界をお散歩しましょう!

植田 佳奈

今回、僕にとって初めて、ナレーションをやらせていただきその中で、ミエナイキズナのストーリーを自分の中に噛み砕いて理解する事ができたので作品の世界に深く入り込み世界観と臨場感を強く感じる事が出来ました。
なのでこれから、「ミエナイキズナ」を体験して下さる方々には是非Xperia Ear Duoを手に舞台めぐりをして頂いて、僕たちが演技する上で感じた臨場感と世界感、またイヤホンの力でその場所の空気感を楽しんでいただきたいです!

下鶴 直幸

★Xperia Ear Duoはもちろん、有線タイプのSTH40Dでも現実世界の音と仮想世界の音が混ざり合う「Sound AR ™ 」体験を楽しめます

このイベントのボイスはバイノーラルなどで収録されており、ソニーのオープンイヤースタイル用に特別チューニングされています。
Xperia Ear Duoや有線タイプのSTH40Dを使用して聴いていただくと、キャラクターの音声が実際の街の音と混ざり合い、より臨場感をもって楽しめます。

※ Sound AR™はソニー株式会社の商標です